「旦那がいなくて、父親と娘の面倒を見て、さらに無駄飯ぐらいの居候なんざとても世話する余裕無かっただろう」

 だって私もマリサも、レインが好きなんだもの。
 ルツはさらりとそう言い、蜜柑を半分に割る。

「それにね、私、信じてたの。きっとあなたたちが五千万持って帰ってきて、レインを探しに行ってくれるって」

 ふん、とタキオは真面目な顔になった。

「どっちにしろ、そのガキどもに見つかったってことは、当然騒ぎになって、警察が出てきたんだろ? 裏じゃ、 軍の諜報部も動いたに違いない。奴らが辺りを徹底的に捜索したはずだ」

「ええ。それでも今だに、この周辺を警察がうろうろしてるのよ。レインが家に現れるのを、待ってるんだわ。それってつまり、 彼らにもレインを見つけられないってことよね」

「ああ。確かエトウル湖は、アンブルとの国境近く。しかも警備が薄くて、たまに地雷原を抜けて密入国する奴がいるところだ」

 タキオは頭を掻いた。

「あいつのことだから、うっかり国境越えてアンブルに入った可能性もあるよなあ」

 蜜柑の房を目の前に差し出され、ロミは顔を上げた。ルツが細めた目尻に皺を寄せ、豪快に分割した蜜柑を差し出していた。

 その指が、記憶よりも幾分細く、荒れているのを見て、ロミはたちまち、ルツに怒りを感じたことを恥じた。
 彼女とて決して楽な生活ではないのに、レインを養い、そして最大限に守ろうとしてくれたのだ。溢れんばかりの愛情で。

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