円柱が支える高い天井を見上げ、タキオは感心して言った。大きさもさながら、扉の周囲には立派な彫刻が彫られている。 銀行と言うよりは美術館、或いは中世の遺跡のようだ。

「さっさと中入るぞ。こっちは全身機械のてめえと違って、寒いんだ」

 オズマは鼻水を垂らしながらそう言うと、警備員が立つ入り口をさっさとくぐっていった。

 内部もまた、高級ホテルかサロンさながらの豪華さだった。大理石のエントランスに、巨大な金色のクリスマスツリー。 客が座っているのはビニールの長椅子ではなく、腰が沈むようなソファセットだ。しかも、客がそのソファセットから 立ち上がり、カウンターに行くようなことはない。銀行員の方からカウンターを出てきて、お客の元に行き、 膝折って接客するのである。

「ワルハラで、否、世界レベルで最高峰の銀行だ。口座を開くのに馬鹿高い金が必要だから、ほとんどが企業や法人の口座で、 個人の口座は少ない。支店もないからここでしか出入金の手続きも出来ない。その代わり、匿名性、守秘性、安全性はピカ一だ」

 その高級な雰囲気にはまるでそぐわない外見にも関わらず、オズマが店内に入っていくと、すぐさま行員がやってきた。 オズマがタキオを友人だと紹介すると、美女の行員は笑顔で尋ねてきた。

「お飲み物は何をお持ちしましょうか?」

 彼女がコーヒーを二つ運び、「担当者をお呼びしますので少々お待ちくださいませ」と タイトスカートに包まれた美しい尻を見せて去っていくと、タキオは感嘆のため息をつき、熱いコーヒーに口をつけた。

「銀行のサービスとしては世界最高峰なのは、よく分かった。けどな、ワルハラ国内にも他に支店がないような銀行で、 エイゴンのお前の口座に入れた俺の金を、どうやって引き出すんだ?」

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