「俺はよく知らないんだが、その『東方三賢人』ってのは、数ある反グール主義組織の中でも、特に危険視されてる組織らしいな」

 とオズマは言った。

「が、よく分からん。爆弾テロを起こしたからそういう武力派なのかと思いきや、今回のやり方は彼ららしくない、なんて一部の 新聞には書かれてるしよ。調べてみたら、爆弾テロどころか、活動らしい活動なんざ、ほとんどしてないんじゃねえか。危険視されてる 理由も、奴らの実体も、俺にはさっぱりだ」

 お前は同業者だからきっと詳しいよな、と、オズマはサングラスの奥から、どこか探るような視線をこちらに向ける。
 タキオはしばらく無言で、その視線の意味するところを吟味していた。が、やがてゆっくりと口を開いた。

「確かに、ここ六十年ほどは、実質解体状態だったはずだ」

 言葉が思考に先走らないよう、タキオはゆっくりと話す。

「『東方三賢人』は元々、三人の科学者の集まりだった。
 脳科学の叡智と謳われたが、違法な人体実験を行って医学界を 追放されたゼットー博士。その親友で工学専門のイワンヤ博士。そして、当時若干十四歳にも関わらず、大学院を主席で卒業、 永遠の謎とされた数学の難問をことごとく解き明かし、世紀の天才と呼ばれたネリダ博士。
 医学界を追放されたゼットー博士を追うようにして三人は集まり、そして、一つの研究を始めた。ゼットー博士の指揮で、 主に彼とイワンヤ博士が実験し、ネリダ博士がその経緯を、オリジナルの暗号でレポートに書き残した。やがて実験は成功し、 悪名高き当時のワルハラ領主、豪人(ゴート)は死んだ。現ワルハラ領主のミトが、その後を継いだ」

タキオは静かに続ける。

「『東方三賢人』が生まれたのはこの時だ、彼らの研究成果を目の当たりにした反グール思想の人間が、こぞって彼らの周りに集まり、 そう讃えたのだ。しかしその後すぐにゼットー博士が病死し、残された二人も、研究を止めてしまった。周囲の人間がどれだけ 研究を続けるよう言っても無駄だった。むしろ周囲の人間の熱狂を恐れたネリダ博士によって研究レポートは処分され、 グールを倒した力の全てを秘密にしたまま、二人は姿を消した。後には『東方三賢人』とは名ばかりの、無力な集団だけが残った」

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