しばらく、沈黙があった。

 無言のテーブルへ、タイミングを見計らったかのように、陰気な店員がヨーグルトジュースを運んでくる。タキオはスパイスの香りと 羊肉の旨味、そしてジュースの甘さを味わうことに専念した。が、やがて、オズマが静かに言った。

「俺もワトムも、『ネリダ博士の研究レポート』に興味はない」

 ちら、とタキオは顔を上げた。

 椅子に戻ったオズマは、頬杖をつき、サングラスの面をじっとこちらに向けていた。その表情は、読めない。

「タキオ。お前は不思議な奴だ。他の反グール主義者と組むこともなく、たった一人で、グールを倒そうとしている。全身を機械に変えて、 エイト・フィールドを敵に回してまで。全く、夢見がちな馬鹿にしか出来ない芸当だ。けど、お前はそういう馬鹿じゃない。何と言うか……」

そう、まるで、とオズマは呟いた。

「まるでお前は、その為だけに生まれ、その為だけにしか生きられない、ロボットのようだ。
 タキオ、お前は何者だ? 一体何処からやってきた? お前を動かすものはひょっとして、お前の掌には到底収まりきらない、 歯車なんじゃないか?」

 タキオはヨーグルトジュースを飲み干した。切子ガラスのコップがテーブルにぶつかる音に、笑いが混じった。

「……お褒めに預かり光栄だが、俺は何も、たった一人で正面からグールが殺せるなんて、思っちゃいねえよ。 ちゃんと計画があるし、協力してくれる仲間もいた」

「……ロミのことか?」

「違う」

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