ぶつぶつ呟きながら、アリオはコートのポケットから、炭酸水のペットボトルを取り出した。一気に飲み干そうとするが、 気管に炭酸が入り、ただでさえ呼吸が苦しかったのが、窒息しそうになる。ひとしきり悶絶した後、 涙目でアリオは毒づいた。

「それもこれも、ネモのせいだ。あいつとオリザが血が繋がっているなんて、信じられない。 全く、自分のことしか考えていない、最低な男だよ」

 己のことは棚に上げて息巻くと、アリオはオーツの瘤から体を起こし、慎重に枝の方へ進み始めた。 枝は四方八方を葉に覆われ、まさに五里霧中の道行きである。

 と、足元に何か印のような物を見つけて、アリオは立ち止まった。
 それは、オーツを管理する環境管理局が、目立つよう真っ赤なペンキでつけた、マークだった。

 彼らは、クレーター・ルームの生命線とも言うべきこの樹に万一が起きぬよう、定期的に点検を行っている。 環境管理局のCMなどでたまに見かけるその姿は、まるで登山家か鳶職人のようだ。命綱にヘルメットをつけ――
 万一この高さから地上へ落ちたら、ヘルメットなど役に立たないだろうが――
 幹に設置された簡単な足場を頼りに、 上へ上へと登っていく。そうして樹に異常がないか調べ、何かあればサインを樹皮に残していく。

 勿論アリオにそのサインが読めるはずもなかったが、アリオはその印の前で立ち止まると、己の顔程も大きさがある、近くの葉をかき分けた。 泳ぐようにかき分けると、不意に緑色の重なりに穴が開き、陽光が差し込んできた。アリオはサングラスを かけ直し、葉の間から外を見た。

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