眩しい。
 クレーター・ルームに蓋をする透明なドームが、もうすぐそこにある。

 地上を見下ろせば、もはや街並みなど区別することが出来ない程、高い。眼下の景色は、細かく砕いた天然石の、モザイクだ。 その上に、中央駅の両端から伸びる超高架線路が、蜘蛛の糸のように架かっている。
 モザイクはクレーターの内壁に這うようにして、 上っていくが、それもアリオのいる高さまでは、遥か届かない。顔をまっすぐ前にした彼の目に入る物は、剥き出しのクレーターの内壁と、 その内側に聳え立つ、残り六本のオーツの、天辺のみである。

 アリオは高所恐怖症ではないが、それでも足が震える高さだった。額に滲む汗を、ドームから注ぐ強烈な光が照らす。 どのような物質で造られているのか定かでないが、 太陽の光をレンズのように収縮しているのだろうか。クレーター・ルーム市街から見上げる空は、そこにドームがあることを忘れる程青いのに、 間近に見るドームは乳白色に輝いて、その向こうにある青空を遮っている。

「うう。こんな深い穴の底に街を作るなんて、ここの人たちは何を考えているんだ」

 アリオは身震いすると、そろりそろり、枝の付け根まで後退し、再び袋の隣に腰を下ろした。

 しばらくぼんやりと、静寂に浸る。これだけ大きな樹なのに、鳥の一羽もいないのが不思議だ。乳白色の強烈な光に包まれ、 魂が異次元に漂い出したような気持ちになる。

 すん、と鼻を啜り、アリオは傍らの袋に話しかけた。

「オリザ、僕のこと、探してるかな」

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