それでも何故か、彼の姿だけは他のメンバーのように消えず、妙な親近感と共に、記憶の片隅に残っている。

 共に、金と地位のある家庭の一人息子であった。
 金も特権も持たない者が大多数を占める世の中で、 そうでない者は、後ろめたい孤独を自ら作り出している。両親とも不仲で、親しい友人もいないアリオは、 いつも馬鹿高い金メッキの柵の内側から、外を眺めているようなものだった。そして、ノキヤも似たような孤独と高慢を抱えていた。 そんなことは、一目見ただけで、同類の勘で分かった。

「勿論この世の金持ち全員が、同じ気持ちを味わってるってわけじゃないけどね」

 だからこそ、ノキヤのことは今でもほんの少し、オリザに寄せる想いの十分の一程度には、引っかかる。


 だがやはり、オリザもノキヤも、もはや己にとってはまるで無意味な存在なのだ。


 『東方三賢人』に関する記憶が光の中にどんどん薄れていくのを見ながら、アリオは静かに袋を撫でる。


「……特に僕のひい婆ちゃんは、そんな気持ちとは無縁な人物だった。生身の人間をどんどんチェスの駒と代えていく、 廃墟の街に聳える城みたいな人だった。僕の気持ちなんか永遠に理解出来ないような人だったけれど、それでも僕は大好きだった。 ひい婆ちゃんみたいになれたら、どんなに人生楽だろうと思っていたんだよ。 まさかあんな風に死ぬなんて、思ってもみなかった。

 ねえ、お聞きよ。聞けば、お前も何故自分がこんな高い場所まで連れてこられたか、 分かるから」

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