『金も地位も名誉も、死ねば全て無に帰す』

 と、花咲き乱れる庭園で戯れる老人たちを眺めながら、曾祖母は、死んだ虫のような唇で言った。

『そして生きている間には、命綱の一本に過ぎない』

 最後の訪問の日、曾祖母が何の脈絡もなくそう呟いたのを、アリオははっきり覚えている。


 その日の夜、施設は森ごと、大火災に呑み込まれた。


 ワルハラ史上最悪の森林火災、と後に新聞やラジオは報道した。その火勢には、森林火災の経験値が高いワルハラの消防技術を以ってしても、 全く歯が立たなかった。領主のミトが外交で留守にしていたのも、痛かった。施設にあった何らかの可燃物に引火したのか、 大きな爆発が二、三度あった、とも伝えられている。

 火は三日三晩燃え続けた。森は焼失し、湖周辺は焦土と化した。

 施設や病院にいたはずの五百人あまりの人間は、骨の一本すら、出てこなかった。

 今から十七年前、アリオが五歳の時の話だ。
 曾祖母は九十歳で消失し、文字通り、この世には彼女の築いた財産と地位と名誉しか、残らなかった。

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