マリサ、とルツは娘をたしなめた。

「何度も言ってるでしょ。お祖父ちゃんの具合が良くないから、それは出来ないって」

「じゃあお兄ちゃんは、いつになったら帰ってくるの?」

 年が明けたらね、とルツはお茶を濁した。その様子を見たロミとタキオは、視線を交わした。明らかに、ルツは何かを隠している。 マリサの前では、言い出せないのだ。

 ロミは意気消沈して、紅茶に映る己の顔を見下ろした。

 タキオと旅する間、レインのことは、時折思い出す程度だった。 しかし会えないとなった今、やってきた落胆は、自分でも驚くほど大きい。しかもその落胆は更に、嫌な予感で塗り潰されそうになっている。

 マリサの追求から逃げるように、ルツはロミの隣に座るイオキへ、笑顔を向けた。

「イオキはケーキ食べないの? 甘い物苦手だった?」

 ロミたちが話している間、イオキはケーキにも紅茶にも手をつけず、黙って正座した膝に手を置いていた。
 急いで顔を上げたロミは、たちまち『お姉さん』の顔になり、この子ほとんど食べないんです、とフォローしようとした。

 多分自分と同じ年か、ひょっとしたら一つか二つ年上かも知れないが、それでも「守ってあげなくちゃ」と思わずには、否、 思わさせられずにはいられない。


 イオキは不思議な少年だった。

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