「どうしたの?」

 イオキの方に身を寄せ、ロミは囁いた。

 しかしイオキは、全く聞こえていないようだった。写真を凝視したまま、凍りついている。 その様子を見たルツが立ち上がり、チェストから写真を下ろして持ってきた。

「この子がレインよ。左手に使鎧を取り付けた日に、記念に撮ったの。良く撮れているでしょう?」

 イオキの隣にしゃがみ、ルツは写真をその手に優しく渡した。イオキは絶句したまま、写真の中のレインを見下ろした。 レインの、何もかもを呑み込むような漆黒の瞳が、イオキを見返した。

 長い間があり、やがてイオキはゆっくりと、ロミの方へ振り向いた。

 深い森色の瞳が、燃える金色の瞳を間近に見つめる。ロミは思わず息を呑む。何度接しても、こうして目の前で見ると、 魅入られてしまう瞳だ。自然に溢れるあらゆる緑を凝縮し、透明な光と水だけで固めたような瞳。

 しかしその下、色と煌きに半ば覆い隠された表情は、今までロミが見たことのないものだった。 心臓が叩き壊されたようでもあり、すぐ目の前に死神の爪が突きつけられたようでもある。 同時に、必死にその動揺を押し殺し、こちらの心を読もうとしているようにも見える。

 知らず知らず、ロミも目に力を入れていた。

 金色の瞳に揺らめいた、優しい温もりとその奥にある激しい熱が、緑の瞳に映った。

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