やがてイオキは、黙って真っ青な顔を振ると、熱に枯れた植物のようにうなだれた。

「頭、痛い」

 あらあら、とルツが立ち上がり、イオキの額に手を当てる。ロミにも滅多に体を触らせないイオキだったが、 されるがままだ。「少し熱があるみたい」とルツは言うと、イオキを立ち上がらせた。

 二人が居間を出て行くと、ロミはイオキが落としていった写真を手に取り、じっと見つめた。

 相変わらずの無表情だが、何となく微笑ましく、懐かしいレインの顔。痛々しく包帯が巻かれていた左腕の先には、 新しい手がついている。ああ良かった、と喜びがこみ上げてくるのと同時に、イオキの表情が心の隅を引っかく。

 一体、彼はどうしたのだろう? 何を見たのだろう?

 ロミは問いかけるようにタキオを見たが、タキオは黙って肩をすくめるだけだった。

「本当に、お医者に診せなくて大丈夫かしら」

「大丈夫だろう。あいつは放っとかれるのが好きみたいだし」

イオキを部屋に寝かせて戻ってきたルツへの返答にも、珍しく疲れが滲んでいる。

 その声で、ロミも急に、自分がひどく疲れているのに気がついた。当然だ。半年近くも、旅してきたのだから。

 再会の興奮で膨らんでいた風船が、イオキの瞳に当てられ、弾けてしまったようだった。その中から零れ出た疲労を、部屋の温もりが 優しく受け止める。
 急激に体が重くなっていき、マリサが旅の土産話をねだってくるが、答えることが出来ない。 ケーキの欠片をフォークに刺したまま、ロミはいつの間にか眠ってしまった。

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