汗だくになって目覚めると、旬の鯛鍋が待っていた。

 卓上コンロの上の土鍋に、豆腐、白菜、人参、しめじなどが揃い、薄皮のついた鯛の切り身は、もうもうたる湯気の中で 紅色に上気する。それらの旨味が昆布の出汁と混ざり合ったところに投入されるのは、白米と卵だ。全てたいらげ、もうこれ以上は食べられない、 とはちきれそうな腹を抱えて天井を仰ぐと、目の前に、バニラアイスが差し出される。無論、甘い物は別腹である。

 それからタキオは老人の晩酌に付き合い、ルツはマリサを寝かしつけ、ようやく落ち着いて話が出来るようになった頃には、 天窓から満天の星空が見えていた。

「ロミもしっかり髪乾かさないと風邪引くわよ」

 湯上りのロミがコタツでうとうとしていると、蜜柑の皮を剥きながら、ルツが言った。

「そうそう。髪乾かして寝ろ。子供はもう寝る時間だぞ」

とうに酔い潰れた老人の隣で、手酌しながらタキオがからかう。疲れでやや青白かった顔は、美味い酒と鍋で、 すっかり血色を取り戻している。

「まだ寝ないもん」

 顔を上げたロミは唇を尖らせた。

 久々に過ごした、賑やかな団欒。美味しいお鍋に温かいお風呂。後はもうこの幸せを抱きしめたまま、布団に入るだけだ。分かっている。 そう出来たらどんなに良いだろう。でも

「……レインのこと、聞くまでは」

 その一言で、和やかな団欒の雰囲気は、やや重苦しいものに変わった。

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