剥き掛けの蜜柑を置くと、ルツは静かな表情で話し始めた。

 自分たちがここへ帰ってからしばらくして、レインが農場を飛び出し行方知れずになった、とエッダから電話があったこと。 『人間農場』の元『家畜』の存在に勘付いた少年たちに見つかり、彼らの手を逃れて逃げ出したらしい、と言うこと。 すぐに探しに行こうとしたが、丁度その頃父の具合が悪くなり、動けなかったこと。

「……だから私、あなたたちに連絡したかったけど、どこにいるかさっぱり分からないし。そっちから連絡もないし」

 彼女らしくもなく、話の終わりは弱々しかった。

「酷い」

 とロミは思わず呟いた。
 ルツとタキオが、同時にこちらを見た。

 酷いよ。彼は私たちと同じ人間なのに。何故『人間農場』だけでなく、人間社会でまでも苦しめられなくてはならないの。

 心を許せる人もいない地で迫害されたレインの気持ちを考えると、泣きたかった。平気で彼を兎のように狩り出した少年たちが、 憎くてたまらなかった。

 私いたら、そんなところに、レインを一人置いてきぼりになんてしやしなかったのに。レインの側にいて、 彼を傷つけようとする奴らを、蹴り飛ばしてやったのに。

 ロミが唇を噛んでうつむいていると、タキオが口を開いた。

「おい、それ以前にな。そもそもどうしてレインがあんたの家に世話になってるんだ? 俺、ここを発つ時、あいつを施設に入れるよう頼んで、 その金も渡したよな」

「あら、今更返せったって、無理よ。全部レインの食費に消えたから」

赤い顔で、タキオは苦笑した。

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