ミトは呟いた。

 その単語が端正な唇から吐き出された瞬間、それまで静かだった海色の瞳が、僅かに動揺した。

「ええ。父さんも勿論知っていますよね。六十年前、実際にグールを倒したとかで、反グール主義者の中で伝説視されている組織ですよ。 その残党と言うか末裔が、今回僕を襲った犯人なんです」

 美しい水平線が、不気味に揺れ動く様を観察しながら、コンは平然と続ける。

「長く目立った活動もありませんでしたしね。事実上消滅していたと思われていましたが、どうやら違ったみたいです。 ま、グールを襲うのにあれしきの戦力で向かってくる辺り、六十年前に比べかなり弱体化しているようですが……  崩壊した現場跡から、瀕死状態のメンバー三人を拘束したので、怪我の回復を待って、尋問が行われる予定です」

 コンはそう言うと、ミトの手の中から写真を引き抜いた。

「ねえ父さん。僕は全然悲しくありませんよ」

 そのまま写真は真っ二つに破られ、床に放り捨てられる。引き裂かれた一葉の写真は、力なく舞い、ベッドの下へ消える。

「ノキヤは勉学と遊びを共にした後輩だった。良い奴だったし、素敵な思い出も沢山ある。けれど、何の感情も湧きません。 彼に裏切られ、この手で殺したって言うのに。人間ならばここで、何らかの感情が生じるはずですよね? 人間の心理に詳しい 父さんなら、分かるでしょう?」

 写真の中と全く同じように、コンは破顔した。

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