人間を喰らう人喰鬼。
 たった一人の女王から産まれ、彼女にその身を捧げるのと引き換えに、たった一人の子孫を残す人喰鬼。
 よって、八人と言う人数から減ることはあっても――
 実際、永い歳月の中で、グールの数は真綿で首を絞めるように減り続けている。例外的に雌グールが産まれると、 彼女は女王との間に子供を残すことが出来ないし、子孫を残す前に死んでしまうグールも、極稀にだが存在する――
 増えることはない。

 もし彼らが、人間と同じ繁殖方法を取っていたら、人間はとうに死滅していただろう。 そして、餌を失った彼ら自身も、同様の道を辿らざるを得ない。この世の弱肉強食は、真に良く出来ている。

 そんなルールに縛られた中で、女王との間に二人の子供を設けたミトが、何故今なお生きているのか。
 それは、ミト自身にも分からない。



『そんなこと、私にだって分からない』



 女王もそう言った。かすれた声で。


 いつ果てるとも知れぬ彼女の長い桃色の髪が、氾濫した川のように寝台から溢れていた。全裸でその中心に横たわった彼女は、 まるで巣の中の雛のようだった。


 彼女は息も絶え絶えだった。体力と精神力のほとんどを受胎に奪われ、その甘美な余韻を味わう余裕も無かった。 本来ならそこで彼女は、本能の命じるまま、自分の上に覆い被さる男に牙を立てているはずだった。 しかしその時、彼女は顔を歪め、必死に自分の指を噛んで、その衝動を抑えようとしていた。

--------------------------------------------------
[954]



/ / top
inserted by FC2 system