タキオは助走し、跳躍した。その瞬間、体が重力から解放されたことを、知った。

 無論、それは錯覚に過ぎなかった。しかし、限りなく事実に近い錯覚だった。タキオの体は、 まるで豹か何かのように、十メートル以上も宙を舞った。

 タキオの足裏が、廃墟と化した高層ビルの、三階辺りの外壁に触れると、コンクリートが砕け、外壁全体にヒビが走った。 おっと危ない。完全に外壁が崩壊する前に、タキオはもう一度跳躍した。

 ほとんど垂直の壁を跳ねるようにして登っていき、僅か三歩で、ビルの屋上を踏破する。 そのまま勢いを殺さず、むしろさらに力を入れ、屋上の給水塔を蹴る。 鉄板入りブーツの足裏で、給水塔が崩壊する。

 鳥以外には何もない空中まで飛び上がったタキオは、最終動作に入った。跳躍の最頂点で、体中に力を漲らせ、 崩壊していく給水塔の、隣に建つビルに狙いを定める。

 給水塔が崩壊していく様子を視界の端に入れながら、タキオは狙いのビルに向かって、落下しいった。勢いよく、 地上へ落下する隕石を思わせる姿で。

 その踵が、十三階建てのコンクリートビルを、頂点から叩き割る。

 青空を背景に、轟音と地響き、粉塵を撒き散らしながら、ビルは崩落していく。その威力に内心口笛を吹きつつ、 タキオは落下していく瓦礫を次々と足場にして、崩落現場から脱出した。数秒ほど粉塵の嵐に包まれたが、 次の瞬間には、青空が広がる。周囲のビルの屋上を伝い、波状に広がっていく粉塵から逃げていくが、 その身の軽さも、これまでとは段違いだ。

--------------------------------------------------
[965]



/ / top
inserted by FC2 system