タキオは黙っていた。

 ルツは危なっかしくレールの上でふらついていたが、やがてとうとうバランスを崩し、地面に飛び降りた。
 そのまま怒ったように振り向き、彼女は両手に腰を当てた。

「言っときますけどね。それでグールと戦える保障なんて、どこにもないわよ。使鎧の身体能力を高める為に、 持てる技の全てを尽くしたけれど、私はそもそも、グールの身体能力がどの程度のものか知らない。 あなたは蹴りの一撃であの街を破壊したけれど、彼らはひょっとしたら、小指の先で同じことをするのかも知れない」

 タキオは肩をすくめた。

「分かってる。これで奴らに全く歯が立たなくても、文句は言わない」

「それでも戦わなくてはいけないの?」

「そうだな」

 タキオはこめかみに、銃口のような指先を当てた。冷たい外気にさらされた耳の痛みが、頭の芯まで侵入してくるような、 気配があった。

「まさにあんたの言う通りだ。決して報われないと分かっていても、不幸になると知っていても、自分が望んだわけでもない道なのに、 歩かなきゃならない。

 けれどその道を歩いているのは、他の誰でもない。俺自身の足だ」

 脳に、神経を裂くような閃光が走る。

 同時に、灰色に沈んでいた記憶に、ほんの一瞬だが、色が蘇った。

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