『この世界は、人間の物だ。人間を喰らい、脅かす者の存在は、許されない。グールを殲滅するのだ。お前が、それをやるのだ』 開いた脳に、幾つも電極が取り付けられていく。電極は、一目で手製と分かる、複雑で見栄えのしない機械に繋がっている。 老人がスイッチを押すと、機械が動き出し、赤ん坊の脳に電気が流れる。死んだ蛙のように、赤ん坊の体が跳ねる。 電気を流されているその赤ん坊は、俺だ。 俺は、生まれてすぐ己に起こった光景を、外側から見ている。夢か? 妄想か? 否。 これは確かに、俺自身の記憶であり、そして、この老人自身の記録だ。 目覚めよと呼ぶ声が聞こえる。誰も寝てはならぬと歌い続けている。俺は頭の中で響くその歌を聴きながら、 今日も己の足で歩く。重い重い鋼の足で、枯れ草をまた一つ、また一つ、踏みつけながら。 タキオはじっと目を瞑り、頭痛をこらえていた。 すると不意に、血と鋼の匂いが、暖かな香りに掻き消えた。 タキオがゆっくり目を開けると、鼻先に、大きな葉があった。それを掌でこすり、立ち昇ってくる香りだった。 葉を両手に乗せたルツが、心配そうにこちらを見上げていた。 「しっかりなさいな」 -------------------------------------------------- |