その外庭にあったのが、小さな翼竜のブロンズ像だった。多くの人間に触られたのか、すっかり黒く変色していた。 台座の説明文を読むと、この翼竜の化石を発見した学者が後に大金持ちになったと言う逸話があり、像に触れて祈ると願い事が叶う、 とまことしやかに書かれていた。

 勿論ロミは、そんな子供騙しの能書きを信じたりはしなかったが、他の多くの人間たちのように像に触れ、真剣に祈った。

 そもそも彼女がここへ来たのは、この像目当てだった。「あの像は、本当にお願い事が叶うんだよ!」と、 マリサが自信満々に教えてくれたからだ。願掛けさえ終わってしまえば、恐竜自体にそれ程興味はない。

 しかし、ロミの目的が願いを叶えるブロンズ像なら、イオキがやってきた目的は、恐竜そのものだった。

「私、あそこで待ってるね」

 早々に展示品を見終えてしまったロミは、子供を見守る親たちに混じって休憩用の椅子に座り、イオキを眺めた。

 石に絵を描いたような、貝や甲虫や植物の化石。卵や糞の化石。虫を閉じ込めた琥珀。 鮮やかに彩色された、恐竜たちの想像絵図。微生物から哺乳類までの、進化の変遷。
 イオキは賑やかな子供たちと距離を置きながら、一つ一つ丁寧に眺め、大人向けの難解な説明文も、熱心に読んだ。

 ロミは努めて、レインのことを考えないようにした。イオキの後姿に集中し、恐竜が好きだなんていかにも男の子っぽい、と思った。
 そして、いかに自分がイオキについて何も知らないか、今更ながら考えた。

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