年齢、出身地、食べ物の好み、何故あんな場所で行き倒れていたのか、どうして何も食べようとしないのか。 ロミは何も知らない。

 何も知らないと言う意味では、レイン相手も同じだった。だがレインは、それで良かった。 何億光年という先に何が在るか教えることはなくても、漆黒の無限は何者も拒絶することなく、そこに広がっていた。

 しかしイオキは、複雑に絡み合った枝葉の奥に隠れ、他人を寄せ付けようとしない。無理矢理こじ開けよとすると、 死にかけの獣のように、牙を剥く。


 生傷から血を流しながら蹲る様は、無論、哀れである。
 けれど同時に、ほんの少し、腹正しい。

 優しい言葉をかけ、掌に餌を乗せて差し出し、頭を撫でても、一向に心を開かない者への、苛立ち。


 こうして少し離れた場所から眺めると、よく分かる。

 三葉虫が陳列された硝子ケース覗き込むイオキは、新品の白いマントを着ている。裏には取り外しの出来る黒いフェイクファーが付いており、留め金は金色、同じ色の 洒落たブローチまで付いている。クリスマスマーケットでルツに買ってもらった物で、ロミとお揃いだ。ロミのは栗色である。

 彼が羽織るとと、何の変哲もないマントがまるで、僅かに象牙色がかった上等な白テンの毛皮のようだった。 立ち居振る舞いも、至極自然でありながら、毛皮に相応しい優雅さが、ある。そしてその肉体は、硝子ケースに収められた化石のように、 生物でありながら鉱物、生者でありながら死者という、この世から遊離した美しさで凝っていた。

--------------------------------------------------
[975]



/ / top
inserted by FC2 system