「やあ、初めまして。こういう体験は初めて?」

「はい!」

「そうか。嬉しいね。この中に、化石が入っているんだよ。こうしてタガネを当てて、ハンマーで優しく叩くと……」

 指導員がタガネを小さなハンマーで叩くと、ミルフィーユの層が崩れるように、岩石から薄い切片が欠けた。 粉と共に、独特の臭いが―― ロミには、チーズと植物と虫が枯れたような臭いに思えた―― それを刷毛で払いのけると、 切片の下に、茶色い模様の一部が現れた。

「これが化石だ。何の化石が出てくるかは、お楽しみだよ。結構脆いから、少しずつ、優しくね」

 ロミは早速軍手を嵌めると、意気揚々とタガネを取った。そしてすぐに、発掘作業に夢中になった。 絶妙な力加減でタガネを叩く行為には中毒性があり、上手く切片が剥がれるのは快感だった。

 切片の下から徐々に姿を現してくるのは、小さな魚のようだった。 半分程発掘すると、ロミはハンマーを下ろす手を止め、隣のイオキを見やった。イオキは黙々と、 手馴れた手つきで化石を発掘していた。上手だね、と声をかけると、イオキは手を休めないまま、答えた。

「お父さんと、やったことがある。車に乗って、アンモナイトが沢山埋まった崖まで行った」

「外で? 凄い。本物の発掘みたいだね」

「お父さんは、そういうのが好きだったから」

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