「僕はね、こうして化石を前にすると、胸がざわめくんだ。こうして気が遠くなるほど昔から、数え切れないほどの種族が、 個体が、生き物が、生まれては死に、土に還ってきただろう。その果てに、僕がいる。お父さん、お母さん、と遡っていくと、 必ず何処かでこの化石と繋がっているんだ。そう考えると、宇宙に一人ぼっちで漂い出たような気分になる。 目を開けて、左右を見ると、両手の中で星が輝いているのが、見えるんだよ」

 イオキは黙っていた。ロミは、しばらく指導員の言葉を反芻していたが、やがて呟いた。

「そう考えると、どんなに遠く離れた場所にいる人とも、一生会うことのない人とも、この世界の全ての人と、 私たちは繋がっていることになるのね」

 ケースに蓋をし、指導員は微笑んだ。

「きっとそうなんだ」

 遅ればせながらロミも小魚の化石を発掘し、ケースに入れてもらうと、二人は指導員に礼を言い、恐竜博物館を出た。 マントのポケットに収まったケースの固い感触を感じながら、これはレインにあげよう、とロミは思った。

「僕、ルツさんにあげよう」

 ロミの心を読んだように、イオキが呟いた。良い案だね、と最後にもう一度翼竜のブロンズ像を撫でながら、ロミは頷いた。

 バスに乗り、家に帰ると、おやつ時だった。タキオが、台所でカレーパンを食べていた。息も凍るような早朝から外出していて、 昼も食べていなかったらしい。老人を病院へ連れていったルツ一家は、まだ帰宅していなかった。

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