コップを持つ手から、力が抜けた。急に目の前が遠くなり、風雪逆巻く谷底に落ちていくような、気がした。

「全身に火傷、って……」

 掠れた声で呟くロミを、タキオは慰める表情で見下ろした。

「命に別状はねーよ。然るべき治療も受けた。昏睡状態が続いてたが、つい先日、目覚めたそうだ」

 何かに呼ばれたみたいに、と静かに付け加える。

 堰き止められそうだった呼吸が、細く、緩やかに吹き始める。
 ロミはゆっくりと、体の力を抜いた。落ち着いて前を見つめると、靄の奥に、金色の炎が揺らいでいる。 揺らぎに呼吸を合わせ、考える。

 レインが生きていて、本当に良かった。けれど、ここでそれを喜んでいたら、駄目だ。

「助けに行かなきゃ」

 ロミは顔を上げ、きっぱりと言った。

 言わずもがな、とタキオは頷いた。

「けどお前を連れて行くかどうかは、別の話だ」

 当然のように付け加えたタキオに、こちらも当然のようにロミは反論した。

「行くよ。タキオもレインも、助ける」

 そしてタキオが何か言う前に、頭のリボンに、手をかけた。

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