女王と交尾して生き残った、恐らく史上唯一のグールとして、ミトにはしなければならないことが生じた。
 それは、自分の「代わり」を探すことだった。

 そもそも女王が交尾の後に相手の男を喰らうのは、何も感情的な理由からではない。そんな種族の命を左右するような感情を、 彼女は持っていない。それは純粋な本能だ。本能と言うことは、そこには何らかの必然性がある。 彼女自身の体感によると、生殖行為自体が、膨大な体力と精神力を奪われる作業だった。

 だって普段は、餌を食べる時以外は、眠っているだけなのよ、と最初の交尾の後、女王は言った。
 歌を歌うこともないし、思想に耽ることもない。冷えた灰みたいな体が、いきなり煮え滾り、絶頂に突き上げられる。 血や肉が全部泡になり、海に溶けるみたい。それを再び集めて母体の形に作るのが、どれだけ大変か、あなたには分からないでしょう。

 つまり失われた体力と気力を取り戻し、再び莫大なエネルギーを要する出産に 備える為に食べるの。雄のグールの肉体って、人間とは比べ物にならない程、 エネルギーに満ちているのよ。多分、人間五百人分くらい。


 言い換えれば、五百人分の餌さえあれば、勿論余計な時間と労力はかかってしまうけれど、大事な同胞を食べる必要などないのよ。


 ミトは彼女の言葉に従った。
 しかし、思いも因らぬ事の成り行きに混乱し、そして、一刻も早く彼女を楽にしてやりたいと言う気持ちが先走り過ぎたのだろう。 彼の取った手段は、彼にしては思慮浅薄なものだった。

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