ワルハラに戻ったミトは、軍の諜報部から特に実力が高く、口が固い者を数名選び、彼らと共に作戦を実行した。
 湖と森を丸々一つ所有する超高級老人施設が、犠牲となった。彼らの食事に強力な睡眠薬を混ぜて眠らせ、施設の入居者と勤務者、 およそ五百名以上を全て拉致した。空になった施設は、森ごと焼き払った。完膚なきまでに。

 表向きは、大規模な森林火災とした。骨一つ残らない惨状に、世間からは流石に疑念の声が湧き起こったが、 軍とマスコミを使って沈静化させた。何と言っても彼は、『人間農場』を作り、人間の為の政治を行ってきた、 聖者の如き領主なのだ。彼が与えた安寧を享受する人々は、まさか、と言う不吉な予感を、自ら進んで葬り去った。

 五百の人間は、女王の餌となった。彼女はその血肉を全て腹の中に収めた。一ヶ月かかったが、さして苦労した様子はなかった。 むしろ五百人を生かしたまま保存することに、ミトの方が骨を折った。そして無事、彼女はコンを産むことが出来た。

 しかし、それから五年が経ち、ミトは同じようにするつもりはなかった。

 女王の元から生還してからずっと、恐らく二度目があるだろう、と漠然と予感していた。その為、実際に二度目の召喚を受けた 時には、すでに幾つかの代案があった。彼女に会うまでに、その内の一つを選択し、決意するだけの余裕もあった。

『愚かな質問だけれど』

 ミトは彼女の小さな頭を優しく支え、肩から離すと、その瞳を覗き込んだ。

『もしこのまま僕の代わりを与えなかったら、君はどうなるんだろう?』

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