それまで夢見る少女のようだった女王の顔つきが、たちまち変わった。上目遣いにこちらを睨みつけてきたそれは、
気高い女性のもの、圧倒的な高さに座る母親のものになった。流石のミトも内心、恐れ戦いたが、
彼は微笑みを絶やさず、彼女を見つめ続けた。 彼女は短く答えた。 『飢えて死ぬわ』 『人間以外では駄目? 豚や猿や……』 『分かっている癖に、何故そんな馬鹿馬鹿しいことを聞くの? あなただって、人間を食べなければ、頭がおかしくなるでしょう? 人間でなければ駄目。このままあなたが私に代わりを与えないと言うのなら、私は狂死するしかない』 そして不意に、高慢な子供のように顎を突き上げた。 『あなたはそんなこと、しない』 ミトは笑った。 『勿論しない』 女王は笑わず、それならこの男は一体どうするのか、と言う表情でじっとこちらを見つめた。ミトは穏やかな海色の瞳で 彼女を見つめ返しつつ、ゆっくりと言った。 『君は僕を食べない。僕は五百人分の人肉を差し出すことが出来ない。それなら君が食べるべき者は、一つしかない。 僕以外の、グールだ』 -------------------------------------------------- |