彼女の右腕の使鎧は、一応原型は留めているものの、無残に破壊されていた。 拘束された両手首は頭の上で、天井から吊るされた鎖と鉤に引っ掛けられている。 一本のナイフのようになった体は伸びきり、爪先は床に着くか着かないかと言うところで、揺れている。

 肘掛け椅子に腰かけたニィナは、こちらを見ようともせず、ただ指を鳴らした。オリザの側にいた軍服が素早く動き、 囚人から目隠しを外す。同時に背中を押され、レインはよろめくように一歩、オリザの方へ近づいた。

 オリザの灰色の瞳と、レインの漆黒の瞳が、合った。

「この子に見覚えがある? 貴方たちのアジト跡から発見されたのだけれど」

 ニィナはマントの切れ目から剥き出しの片腕を出すと、マニキュアをした長い爪を優雅に動かしながら、オリザに微笑みかけた。

「この子は貴方たちの仲間。そうよね、『東方三賢人』のリーダーさん?」

 レインの脳裏に、雪の中に立つキリンの姿が蘇る。

 あの時、一緒に隣にいたオリザの、新しい防寒具を買ってくれたオリザの、薄く化粧された白い顔は、今や見る影もなかった。 紫色の蜘蛛の巣のような傷が目の周りに走り、目蓋は腫れ、鼻と口からは血が流れている。天井から吊るされた体は、 黒い着衣の下で、震えている。その黒衣にも、生臭い臭いが染み付いていた。

 レインはオリザの瞳を見つめ、ただ黙っていた。
 オリザもレインを見つめていたが、やがて、見るも痛々しい唇を動かし、はっきりと言った。

「違う」

   ニィナはたちまち笑みを消し、不機嫌に鼻を鳴らした。追い払うような仕草をすると、再び少女がレインの背中を押す。 反転させられ、あっという間にオリザはレインの視界から消えた。レインの足が戸口を跨ぐと、間断なく扉は閉まった。

 しかし、目の前で扉が閉まった後も、監視の軍人が彼を迎えに来るまで、レインはじっとその場に立ち尽くしていた。

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