結局最後まで仲直り出来なかったな、とテクラは思った。

 年が明けたばかりの病棟は、心なしか、普段とは違う種類の静謐に満ちていた。窓から見えるオーツは緑の葉も若々しく、 空気は清々しく、光は柔らかかった。

 テクラ上半身をベッドの柵にもたせ、枕元に置かれた、新しい銀色の写真立てを眺めていた。
 写真立てには、先日のトマの自宅で行われた、クリスマスパーティーの写真が入っている。映っているのは、テクラに、グレオに、 ツユリ。そしてトマの父親のガン老人と、自宅を飾りつけ歓迎してくれた妻。トマは急用が出来たと言う理由で、いなかった。 ヒヨも。

 皆、頭には紙のパーティー帽子をかぶり―― グレオは猫耳まで付け―― すっかり酔いの回った表情で、いかにも楽しげだ。 実際、料理は美味く、仲間たちは陽気で、パーティーはとても楽しかった。しかしやはり、トマとヒヨがいてくれたら完璧だったのに、 と思わざるを得ない。


 テクラがいる限り、ヒヨは絶対に来なかっただろうが。


 写真立てを伏せ、時計を見ると、日課であるリハビリの時間まで、後一時間を切っていた。もう行かなくては。

 テクラは音を立てないよう静かに、そしてゆっくりとゆっくりと、腕の点滴を外した。小さな痛みと共に、点滴の針はシーツの上に転がり、 漏れてくる液体が染みを作り始めた。点滴から解放されたテクラは、さらに慎重な動作で、床に足を下ろした。

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