床に立つのと同時に、激痛が体を駆け抜けたが、この痛みを抱えて生きる覚悟なら、どうに出来ている。

 と、目の前の、ベッドを囲う白いカーテンが、揺れた。

「テクラさん?」

「うわっ!」

 テクラは、尻尾を踏まれた猫もかくやと言う素早さで、下りたばかりのベッドに飛び込んだ。拍子に、さらなる激痛が走るが、 声にならない呻きを上げる暇もない。点滴の先を引っつかみ、腕ごと毛布の下に隠した。

 入りますよ、とカーテンを開けたのは、ツユリだった。 クリスマスパーティーの余韻を思わせる笑顔が、紅梅色のマフラーの上で、咲いていた。
 予期せぬ来訪者に、テクラは「あ、ツユリさん」と、間抜けた呟きを漏らすことしか、出来なかった。

「えへへ、ちょっと時間が出来たので、お見舞いに来ました。そこの花屋さんで、もう水仙が出ていたんですよ。 これ、お餅を少し持ってきたんですけど、食べられます? 黄な粉とお醤油」

 ツユリはてきぱきと、空になっていた花瓶に水仙を生け、タッパーを取り出す。久しぶりに嗅ぐ濃厚な花の香りと、食欲を刺激する匂いで、 停滞していた空気がたちまち活発になっていく。

「さっきナースステーションで聞きました。リハビリは順調。内臓の、使鎧への代替手術も、今月から始まるそうですね」

 一息つくと、枕元の丸椅子に腰かけ、ツユリは心から嬉しそうに言った。

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