しかしその時、ベッドの上でテクラが思ったのは、自分には関係ない任務への不安でも、 そんな任務に赴く仲間への懸念でも、無かった。


 トマとグレオは、自分の知らない人間と仕事をし、ヒヨは、自分の知らない場所で右腕の怪我を癒している。


 イオキ捜索の任務は、ユーラクでの仕事を終えた領主が自ら極秘に当たることになった、と諜報部長が教えてくれた。 もう解任された任務のことは気にせず、ゆっくり治療に専念しろ。お前が回復したら、トマにグレオ、ヒヨと揃い、 またレッドペッパーとして活躍してくれ、と。

 けれど、本当に?

 長い長い休息と停滞の果てに、かつてと同じ居場所が、本当に待っているのか?

 テクラは固く唇を結んだ。ツユリは止め処なく喋り続けている。彼を励まそうとする気持ちが、痛いほど伝わってくる。
 しかし、彼女が、伏せてあった写真立てに何気なく手を触れようとする前に、テクラは言った。

「すみません、そろそろリハビリの時間だから、準備をしないと」

あ、そうなんですか、とツユリは手を引っ込めた。

「何かお手伝いしましょうか?」

「大丈夫です。ありがとう」

「そうですか、それじゃあ……」

 ツユリは立ち上がった。
 ベージュのダッフルコートを着たその背中に、テクラは「さようなら」と言おうとした。

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