二階へ上がると、内装はいっそう古く、みすぼらしくなった。 中学校の校舎のように、それぞれの部屋の内側が、廊下に面した窓から見えるようになっている。 その前後に突き出しているプレートを見て、キリエは、適当な部屋の引き戸を開けた。

「あれ、あんた、『週間世界』の表紙モデルさん?」

 耳ざとく顔を上げた男が、濁声を上げる。

「悪いけど、それならここじゃなくて……」

「違います」

 キリエはばっさり言い捨てると、部屋の中を見渡した。

 煙草とインクの匂いが染み付いた部屋は、乱雑、と言う言葉がぴったりだった。壁に貼られた模造紙も、紙とペンと煙草の吸殻が溢れた机も、 その間を立ち働く人々も、何もかもが乱雑だ。そこへ突如現れた、無機質な香水の香り漂う美女を、皆が呆気に取られて見つめている。

「そちらが夏に書いた、『人間農場』の元『家畜』の、現在の居場所を知りたいのですが」

 彼らの戸惑いなどお構いなしにキリエがそう告げると、濁声を上げた男は、あたふたと口から煙草を外した。

「え? あ、『人間農場』の? いやあ、いきなり言われても…… ちょっと、うちじゃ分かりませんね。 あれを書いた記者は、本社勤務だし」

 キリエの冷たい視線に射られ、男は消え入るように黙った。他の人間も皆、事の成り行きを見守るばかりで、口を開こうとしない。
 それなら此処に用は無い、とキリエが身を翻そうとしたその時、彼らの中から、一人の女が駆け寄ってきた。

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