沈黙が下りた。

 その一瞬がファインダーに閉じ込められてしまったかのように、沈黙は、果てしなく続いた。その間に、 廊下の振り子時計が、きっかり十三回時を刻んだ。

「俺の記事に対する手紙は、一通一通、全て読ませてもらっています。あなたの意見は確かに、大部分の市民の気持ちを代弁しているかも 知れない。でも全てじゃない。俺の記事を読みたい、事実から目を背けたくない、考え続けたいと言う声だって、 少なからずあります」

 やがて青年が、固い声で言った。

「少数派の意見は、少数派の存在は、無視しても構わないんですか」

 ご大層なことを言うな、と相手は苛立ち混じりの嘲笑を上げた。

「何が少数派だ。お前の味方が少ないと言う事実を、上手く言い換えただけじゃないか」

 再び沈黙があったが、今度は短かった。

 青年は何か吹っ切れたように、宣言した。

「とにかく、あなたがこの記事を掲載しないと言うのなら、俺は直接この原稿を、印刷所に持っていきます」

「そんなことさせるか」

「やってやるとも。印刷所が印刷を拒んだら、印刷機の上に居座ってやる」

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