扉の開く音がして、キリエは顔を上げた。

 奥の部屋から、一人の若い男が出てくるところだった。後ろから、此処まで案内した記者見習いの女が、慌てて追いかけてくる。 「おい、ちょっと待ち給え!」と喧嘩相手の声も追いかけてきたが、青年は立ち止まらず、首だけ背後に向け、叫んだ。

「俺は、何の罪もない子供から平穏を奪った! もう一生、取り返しのつかないことをしてしまった! だからこそ、 それだけで終わらせたくないんだ!」

 大股にこちらに向かって歩いてきた青年は、キリエの姿に気がつくと、不意を突かれたように足を止めた。

「あっ、先輩。こちらが、さっき話した方です」

 記者見習いが急いで前に出て、紹介する。

 キリエは雑誌を置き、立ち上がった。ニルノは緊急停止を試みる暴走車のように、意味も無く両手を動かしていたが、 ようやくネクタイを締め直した。白い歯を見せ、懐から名刺を取り出した。

「初めまして。ワルハラ日報社会部のサムサゲ・ニルノと言います。『人間農場』の記事を書いたのは、俺です」

 歯を見せて笑うと、先程の気迫は何処へやら、たちまち能天気な雰囲気になった。まるで、何も考えていない高校生のようだ。
 だが、よく見れば、目の下には隈が出来ているし、頬もこけている。洒落たフレームの眼鏡にかかった前髪は、元気なく垂れ下がっている。 蝋で固めた半透明の仮面の下に、疲弊しきった表情が透けて見えるようだ。

 名刺を無視し、キリエは単刀直入に、用件を告げた。

「その記事に書かれた、『人間農場』の元『家畜』の、現在の居場所を知りたいのですが」

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