特に感情を込めて言ったつもりはなかったが、他の多くの人間と同じように、その声を聞いたニルノはうろたえた。

「あー、えー、えーっと。レインの居場所ですか。彼はですね、あの後、 身を寄せていた使鎧職人と共に姿を消して……」

「知っています。知りたいのは、そこから先です」

 記事をきっかけに『人間農場』への批判が高まる中、渦中の人となったレインは、セノ一家ともども姿を消した。 何処へ行った、と世間は彼を追いかけた。エトウル湖付近に逃げたらしい、と言う噂が流れた。が、真偽が定かにならぬまま、 『人間農場』の話題は急速に下火になり、それきり彼の行方は分からない。

「エトウル湖へ逃げた、と言う、その噂が恐らく嘘ではなかった、と言うことも調べがついています。私はさらにその先、 彼の現在の居場所が知りたいのです」

 名刺を握ったままのニルノの手が、揺れ動いた。この女は一体何者なのか、と言う疑問詞が、瞳の中に浮かぶ。
 しかし、真紅の瞳に見つめられている状態で、その疑問を口にする勇気はないようだった。ただ、目を伏せて、答えた。

「それ以上は、俺も知りません。もう、彼の周囲を嗅ぎ回るような真似は、しないことにしたので」

 キリエが鼻を鳴らすと、ニルノは後ろの後輩ともども、飛び上がった。

 知らないのなら、もうこれ以上、此処にいる用は無い。

 ヒールの音も高く、キリエは踵を返した。目を白黒させている二人を残し、階段を下りていった。

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