「セノ・ルツさんですね」

「ええ、そうですけど」

 相手の訝しげな表情も構わず、キリエは単刀直入に尋ねた。

「『人間農場』の元『家畜』は今何処に?」

 たちまち相手は眉を顰めた。眉間ばかりでなく鼻にも目蓋にも皺が寄り、「何と失礼な奴だ」と言う怒り、 「レインの話題はお断り」と言う決意が、顔全体に露わになる。

「知りません。よしんば知っていたとしても、誰にも教えるつもりはありません。失礼」

 とりつくしまもなくそう答え、相手はさっさと扉を閉めようとした。

 予想通りの答えだ。キリエはため息をつくことすらしなかった。 それ以上無駄な時間を使う理由もなく、踵を返しかけた。

 と、そのとき、家の中から子供の声がした。

「お母さん、ベッドの下に、イオキの靴下が片方あったよ」

 キリエは思わず足を止めた。

「あら、そんなところにあったのね。きっと、眠っている間に脱いじゃったんだわ」

「もう片方のと一緒にしといてあげよっと」

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