それからゆっくりと時間をかけ、レインはリハビリを行うと同時に、自らの置かれている状況を把握していった。

 吹っ飛ばされた『東方三賢人』のアジトから発見されたレインが収容されているのは、アンブル軍の病院だった。 彼を常時監視するのは、思想犯や政治犯、平たく言えば反グール主義者の取り締まりを行う、 アンブル秘密警察だった。

 レインが喋った覚えもないのに、爆発したビルが『東方三賢人』のアジトだと判明したのは、同時刻、 第四都市『フォギィ・ブルー』の別の場所で、同じように爆発事件があったからだった。
 小さな料理店の跡からは、『聖御学院』の生徒一人の死体と、五人の生存者が発見された。五人の生存者の内、一人は死亡した生徒の同級生、 そして残り四人は『東方三賢人』のメンバーと判明した。同時刻に起こった二つの爆発は、 アンブルの中でも最重要反グール主義テロリストグループの犯行と、推断された。

「だからお前も、奴らの仲間なのではないかと疑われている」

 入れ替わり立ち代り、ひと時もレインの側を離れない軍服たちの中でも、一際上位と思しき者がそう言った。

「子供だからと言って、我々が油断することはない。今回の事件で死亡した、奴らの仲間と目されている少年は、十六歳だったしな。 お前が奴らの仲間である可能性が一パーセントでも残っているうちは、此処から出られんぞ」

 だから、さっさと言ってしまえ。お前の名前は? 年齢は? 出身地は、両親の名前は?

 そう尋ねられても、レインには、返すべき答えがないのだった。名前だけは『雨』と紙に書いたが、他の質問には、 黙するしかなかった。

 すると男は、レインの左手を指差した。

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