「使鎧の製造と使用は、我が国では違法だ。仮にお前がテロリストでなかったとしても、これだけで充分罪になる」

 レインも己の左手を見下ろした。ルツに造ってもらった機械の左手、熊の襲撃からレインを救い、今やすっかり肉体の一部となった 鋼色の左手が、静かにそこに収まっていた。
 男は言い募った。

「しかもこの使鎧は、素材も技術も、アンブルの闇職人たちが造る物より遥かに高度だ。そこらの闇市で手に入る代物じゃない。 一体、どんなルートで手に入れた?」

 しかし追及は、そこまでだった。

 使鎧の問題はともかく、テロリストとの繋がりに関しては、やはり秘密警察もほぼ無関係を予想しているのか、『尋問』はどこか手緩かった。 目覚めた直後の弛緩状態から抜け出すと、全身の火傷は適切に処置され、 レインは口頭尋問を受けつつ、日に二度の食事をたいらげ、惰眠を貪り、リハビリと称した運動に勤しむことになった。

 妙にがらんとした病院の中を、レインは毎日歩いた。

 無駄な空間、余計な装飾、一切が排除された廊下を、 強烈な明かりが、猫一匹隠れる陰も残さず、隅々まで照らす。端から端まで見渡しても、己と監視の人間以外は、人っ子一人、いない。 ほんの時折、看護帽の下が緑色を帯びた影になっている看護師たちが、亡霊のように通りすがる。

 誰かが持ってきた見舞いの花の香りも、緊急を知らせるブザーの音もない。窓は一つもなく、廊下の両脇に一定間隔で並ぶ扉は、 常に固く沈黙している。
 さらに非常に入り組んだ内部の様は、病院と言うより、巨大な要塞のようだった。

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