ある日のリハビリのこと、気づけば監視の目とはぐれ、レインは非常に幅の狭い螺旋階段に迷い込んでいた。

 螺旋階段を少し下ったところで、独りになっていることに気がついたレインは当惑し、立ち止まった。 しかし振り返っても、蛍のような緑色の明かりがぽつぽつと足元を照らすだけの中、見えるのは壁ばかりで――
 まるで、地底へ伸びた真っ暗な穴のようだ――
 辺りは静まり返っている。

 あの厳しい監視とはぐれるなど、あり得るだろうか。勿論、この施設で目覚めて初めての自由は嬉しい。 だか、このまま一人で不気味な空間を下りていく気には、とてもなれない。

 引き返そうとしたレインの目に、小さな白い光が映った。壁に切り取られた、四角い光。病院内で初めて出会った、 窓だ。レインはそのまま階段を駆け降り、背伸びして外を見た。

 小さな嵌め殺しの窓の外は、真っ白だった。
 初めて吹雪を見たレインは、長いこと、何の匂いもしない窓に鼻をくっつけていた。
 それから諦めて背伸びを止め、後ろを振り返った。

「ぎゃっ」

 レインは思わず声を上げそうになった。

 自分よりも背の低い影が、いつの間にか背後に立ち、こちらを見上げていた。 マリサより少しばかり年上の、髪をお下げにした少女だ。軍服ほど厳しくはないが、質素な造りの制服を着ている。

 何故こんなところに、こんな年端も行かない子供が? あまりにも場に不釣合いな少女を、レインはまじまじと見つめた。

 少女はそのまま何か言いかけようとし、不意に顔を歪めた。

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