マヤと男の間を、部屋から出てきたストレッチャーが通り抜けていく。 ストレッチャーに乗せられた人物の顔を見て、レインははっとした。

 『東方三賢人』のアジトにいた、黒ずくめの若い男だ。名前は何と言ったか。顔は比較的綺麗だが、 首から下を覆った白い布は、全体的に血で桃色に変色している。ストレッチャーがレインの横を通った拍子に、 布の下から、一本だけ腕がこぼれた。それは皮膚を剥がされ、脂肪と筋肉が剥き出しになっていた。

「大丈夫だよ。上手く綺麗に剥いでやったからよ。ドクターなら何てことないさ」

 ふん、と鼻の穴から煙草の煙を吐き出すと、凍りついている子供二人の背中を、マヤは乱暴に押した。 少女は逆らえない足取りで、レインを押して、歩き出した。

 足を動かした感覚は無かったのに、気づけばレインは、鮮血の臭いが充満する部屋の中に、立っていた。

 レインの病室の三倍はありそうな広い空間だったが、ベッドはなく、代わりに鉄の診察台のような物が幾つか、 無造作に置かれていた。手術器具のような物も、床に落ちていた。大きなガラスの破片や腐食したパイプ、剥離したコンクリート片もあった。 それら全てが、ある物はべったりと、ある物は点々と、血に染まり、強烈な手術用照明に煌々と照らし出されていた。

 唯一血の飛んでいない革張りの肘掛椅子に、ニィナが足を組んで座っていた。側には、レインを連れてきた少女と、 全く同じ顔をした少女がいた。さらに数名の軍服が、部屋の中心を囲むように立っていた。

 中心には、オリザがいた。

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