老いた、などと自嘲しても、その足取りは若者よりも闊達、その瞳は他の誰よりも鋭い。

 標的の一行が、混雑する車内を縫うように歩いてくるのも、二枚の扉と一つの車両を隔てた先から、見つけた。

 ザネリは微笑むと、素早く周囲に目を走らせ、空席を探した。幼い子供と母親が座った向かい合わせの席に、空きがあった。 母親に軽く会釈すると、子供の隣に座り、新聞を広げた。

「よーし、もっと前へ行くぞ。あの車掌の姿を見なくて済む場所までな」

「もう、タキオってば。待ってよ」

 シャツの隙間から使鎧を覗かせた灰色の瞳の男を先頭に、三人の子供が続く。赤い髪に金色の瞳の少女、漆黒の瞳の少年。 そして、半透明のスカーフを被った緑の瞳の少年。

 親子とも兄弟とも見えぬ奇妙な一行が、それぞれ荷物を引っさげ、こちらへ向かってくる。

 ザネリは薄笑いを湛えた顔を、平然と新聞に向けていた。 四人はこちらにまるで気づくことなく、傍らを通過していった―― と言っても、四人中三人はこちらを知らないのだから、 当然だが。

 己をよく知っているはずの一人も、漆黒の瞳の少年と互いを支えるようにしながら、傍らを通り過ぎていった。

 新聞から顔を上げ、ザネリは、イオキの小さな後姿を見つめた。生簀の魚を眺める猫のような、気持ちで。

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