今や、焦る必要もない。 彼らの降りる駅は、すでに市場で盗み聞いて分かっている。三時間近く先の駅だ。その間に、必ずチャンスは訪れるだろう。 万が一車内で接触出来なくとも、全く構わない――
 生簀の中で遊ぶ時間は幾らでもある――
 が、恐らくこの列車の中で決着が着くであろう、と彼の勘が半ば断定的に囁いている。

 彼らの姿が一つ先の車両へ消えると、しばらく待ち、ザネリは立ち上がろうとした。

「あんた、蛇の姿をした悪魔が憑いてるね」

 と、不意に、向かいの母親が言った。

 ザネリは彼女を見た。奇妙に痩せた体に何枚ものスカーフを巻きつけた、まだ若い女だ。じゃれついてくる二人の幼子には 目もくれず、手元のカードを切っている。そこから取り出した一枚を、ザネリの前に突き出した。

「ほら」

 カードには、黒い蛇が描かれている。
 ザネリは思わず苦笑した。見たことのある、カードだった。別段珍しい物ではない。市販されている占い用のカードだ。

「俺の知り合いにも、そのカードで占いをする奴がいるよ。彼女にも、同じことを言われた」

 女は気に障った風でもなく、頷いた。

「そいつは良い占い師だね」

 子供の、年長の方が、ザネリの袖を引っ張った。見下ろすとと、「魔除け」と言って、子供の玩具のような数珠を差し出してくる。

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