人喰鬼であるイオキをどうやって拉致するか。
 窓の外に広がる砂漠を眺めながら、水で薄めた葡萄酒を一口飲むと、その方法はすぐに幾通りも思いついた。

 彼が洗面所の個室に入ったら、出てくるのを待ち構えてやろう。間違いなくイオキは、己を見た途端、棒立ちになるはずだ。 その隙をつき、ワイヤーで首を切る。首を切断されたら、流石のグールもすぐには動き回れない。 頭と体を外に放り出し、自分は後からゆっくり飛び降りれば良い。
 或いは、あのレインとか言う少年と一緒にやってきたら、彼を人質に取るのも良いかも知れない。あのタキオと言う男は駄目だ。 敵う相手ではない。足が速いロミにも、注意が必要だ。

 いずれにせよ、あまり深くは考えなかった。綿密に計画を練ったところで、この状況下では、どんな突発的事態も起こり得る。 今思いついた方法も、ほとんど妄想のような物だ。結局のところは、一瞬一瞬状況を見極め、最も適切な行動を判断するしかない。


 運が悪ければ、イオキは席を立たないかも知れない。いざその時に、車掌に鉢合わせてしまうかも知れない。



 ――あの時偶然オズマに会わなければ、イオキの居場所を知ることが出来なかったかも知れない。 漁師を探し当てられなかったら、ボートから海に落ちたイオキが何処へ流れ着いたか、分からぬままだったかも知れない。 ユーリに気まぐれに声をかけていなければ、こうしてイオキと出会えていなかったかも知れない――



 全く、イオキを追い続けたこの半年以上を思い返すと、これまでにない困難な仕事であったと思うと同時に、 己の悪運強さを、しみじみと実感してしまう。

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