『あんた、どうしちゃったの?』

 カトリからは、エイゴンの夢滴楼やユーラクの水煙草屋で、散々なじられたが。

『冷静に考えなさいよ。あの子が本当に人喰鬼ならば、確かにその市場価値は計り知れないけれど、リスクが高過ぎる。 この半年間、稼ぎ頭であるあんたが一切の取引をしなかったせいで、失われた利益がどれ程だと思う?  その上で、あんたがグールに返り討ちにされて死にでもしたら!』

 怒鳴られても、まるでザネリが動じずにいると、『蟻』のボスは苛々と、長い爪同士を打ち合わせた。

『普段のあんたなら、とうに諦めている筈よ。いいえ、最初から手など出さなかった筈。
その、緑の瞳の魔力にやられたのね。 覚えておきなさい。蛇の悪魔は、あんたが他の悪魔に取られたと知ったら、もう手を貸さないわよ』

 蛇の姿をした悪魔は、悪人に寄り添い、悪事に手を貸してくれると言う。

 彼女がその長い尾で、「巣から迷い出た人喰鬼の子供」と言う、砂漠に潜む一粒の金よりも稀な存在を、ザネリの前に引き寄せてくれるのか。 指から零れ落ち、再び砂中に埋没してしまっても、拾い上げ、何度も何度も。

 しかし、あまりに獲物に執着すると、却って愛想をつかされてしまう。

 陳腐な例え話だ。
 と葡萄酒を飲みながら、ザネリは思った。

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