薄めた安い葡萄酒で、一時間、粘った。その間、列車は二回、大きな駅に停まった。しかし、イオキは姿を現さなかった。

「次の停車駅までは長いね。一時間以上ある」

 立派な駅舎を備えた駅から、列車がゆっくりと離れていく。
 ザネリは強張った肩をほぐしながら、空のグラスを手に、カウンター向こうの販売員に声をかけた。 グラスに二杯目を注ぎながら、販売員は愛想良く答えた。

「ええ。途中、あの有名な砂漠の滝の中を通りますよ。近くなったら、窓を閉めるようアナウンスが入りますから」

「ああ…… 絶景らしいね。楽しみだよ」

 二杯目のグラスとアンチョビの小皿を受け取り、ザネリは窓際に戻った。 直前の駅で乗り込んできた婦人たちの、賑やかなお喋りを聞きながら、鰊の油漬けを齧った。

 駅周辺に密集していた建物はあっという間にまばらになり、やがて、代わり映えのしない砂漠の景色が戻ってくる。 細く開いた窓の隙間から、機械と煙の匂いと共に、白っぽい砂粒が入り込む。天井では扇風機が回っているが、暑い。 アンチョビの小皿に、蝿が止まる。

 いかにも不潔そうな洗面所に、何人もの男女が入っては、出てくる。 それらを目の端に映しながら、ハンカチを取り出し、流れてくる首の後ろの汗を拭う。

「そろそろ砂漠の滝じゃない?」

 と、背後で、強烈なバニラの香りを纏った女が、大声で言った。

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