姦しい女の一団が、ザネリを押しのけるようにして、窓際に押しかける。色とりどりのスカーフに、 一瞬、ザネリの視界が遮られる。
 ザネリは紳士的に身を引きつつ、素早く頭を動かし、視界に車両向こうの光景を入れ直した。

 同時に、その、砂で固めたような口元の皮膚が、僅かに引き攣った。

 薄黄色のスカーフで顔を隠すようにして、イオキが一等車両を通って、こちらへやってくる。 列車酔いしたのか、少し青い顔をして、覚束ない足取りで。

 イオキが洗面所に入るまでザネリは静かに見守っていたが、やがてイオキの姿が洗面所の個室に消えると、 一気にワインを飲み干し、立ち上がった。彼を追いかけるように、アナウンスが聞こえてきた。


『乗客の皆さまにお知らせします。当列車はまもなく、砂漠の滝を通過いたします。お近くの窓を閉めていただけるよう、 お願いいたします』

「ほらほら、窓を閉めなくちゃ。砂漠の滝は、そりゃあこの世の物とは思えぬほど美しいけれどね、 生身で近くに寄れば砂に呑まれて、あっという間にお陀仏よ」


 電球一つに照らされた一等車両と食堂車両の連結部は、暗かった。塞がっている個室は、イオキが入った一つだけで、 通路に人の姿もない。便所の臭いを誤魔化そうとする芳香剤の香りが強過ぎる。誰もこんな場所に長居したくないだろう。


 ザネリは洗面所の仕切りに身を隠すようにして、佇んだ。

 イオキの入った個室から、やがて、水を流す音が聞こえてくる。
 同時に、一等車両の通路の窓を閉めながら、車掌が一人、足早に入ってくるが、ザネリには気づきもしない様子で、 離れた場所の窓を閉めに向かう。

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