イオキは、乗り物なら何でも好きだ。森の奥の屋敷にいた頃は、自動車や船や飛行機などの美しい挿絵がついた本を、 何冊も持っていた。ミトがそれらに実際に乗った話をしてくれるのを聞いては、どんな素敵な気分だろう、と胸を躍らせていた。

 この列車は、その高揚感を蘇らせてくれるようだった。

 線路の向こうから現れた列車を見た時から、そして、レインに手を引かれて線路の中に入った時から、楽しそうな予感があった。 その予感は、無事四人とも列車に乗り込み、車両の中を歩き始めると、たちまち確かな感覚に変わった。

 年齢も性別も身なりも多種多様な人間たちが、窮屈そうに座席に収まっている様子は、イオキがミトの話から思い描いていた光景と、 そっくりだった。古いレールから伝わる振動や、滑らかに窓の外を流れていく景色、一緒くたに篭もった汗や弁当や油の匂い、 そこかしこで起こる陽気な笑い声は、思い描いていたのよりも、遥かに素敵だ。

 鉄条網を越え、列車にも船にも飛行機にも乗った。しかしそれらは、常に嫌な気分の下にあった。
 今は、誰にも囚われていない。追われていない。悪意を向けられていない。
 抱えているのは楽しい旅の荷物で、側に居るのは気安い旅の仲間だ。

「よし、ここに座るぞ」

 ようやくタキオが決めた座席の、上や下に荷物を押し込み、悪戯傷に覆われた固い木の椅子に、イオキたちは向かい合って座った。 それからしばらくの間、イオキは、元気いっぱいだった。レインの隣に座って窓から顔を出し、 延々と続く砂丘を、飽きもせず眺めていた。

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