動かなかった筈の掛け金は、いともあっさりと外れた。驚く間もなく、扉も開いた。

 勢いあまったイオキは、つんのめるようにして前へ出た。
 その体を、金属の左手が支えた。

「レイン……」

 と、イオキは、己を救出してくれた人物を、見上げた。レインが、特別驚いたようでも心配していたようでもない、 何気なく扉を開けただけの顔で、そこに立っていた。

 イオキを支えたレインの背後を、笛や弦、太鼓を鳴らしながら、男たちが賑やかに通り過ぎていく。隣の車両にいた楽団員たちだ。 浮ついた足取りに軽快な音楽を携え、食堂車へ入っていくと、酒の匂いと歌声が、彼らを迎える。

 それらを見送りながら、イオキは、レインが片手にナイフを持っているのに気がついた。 ぎょっとして、イオキは後退りした。

「それ、何?」

 レインは肩をすくめ、開けたばかりの扉を指差した。見ると、掛け金に、ナイフの刺さっていた跡がある。 レインが、そこからナイフを引き抜く動作をしてみせる。

 意味を理解したイオキは、不気味な気持ちでナイフを見つめた。

 一体、どういうことだろう? 誰かに、意図的に閉じ込められたと言うことだろうか?

 ナイフを見ていると、否が応でも、あの狐目の男を思い出す。言い様のない恐怖が蘇り、足の裏から震えが這い上がってくる。

--------------------------------------------------
[1272]



/ / top
inserted by FC2 system