イオキが青い顔でナイフを見つめていると、レインがやおら、歩き出した。連結部に一つだけある窓の方へ歩いていくと、 開けっ放しになっていた窓から、肩についていた埃でも捨てるように、無造作にナイフを捨てた。

 そしてしばらく窓の外を眺めていたが、振り向くと、こちらを手招きした。

 イオキは躊躇いがちに、近づいた。

「あっ!」

 と、レインの隣に並んだイオキは、思わず息を呑んだ。

 真っ青な空から、真っ白の砂が、滝のように流れ落ちてきていた。

 延々と連なる砂丘の天辺から、砂が流れ落ちているのだ。その高さは、ほとんど雪を冠した山程もある。落ちた砂は、列車と砂丘の合間の、 底も見えない奈落へ消えていくが、底から吹き上げてくる風に巻き上げられた分が、あたかも霧のように、常に流れの表面を覆っている。

 しかも、少し身を乗り出して見れば、砂の滝は、列車の片側だけでなく、両側にあるのだった。両側を砂の滝に挟まれた、 曲がりくねる高架の上を、列車はひた走り続けている。

 空気と砂しかない空間なのに、まるで明るい雲の国か、透明な水底の国にいるようだ。

 景色に魅入っていると、急に、滝が目の前に近づいてきた。

 あっ、と開いていた口を閉ざす間もなく、無数の砂粒が、イオキたちの顔面に飛び込んできた。

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