「うわっ!」

 二人は咄嗟にスカーフで顔を覆った。その上から、まさに水飛沫の如く、砂粒が降り注ぐ。シャワーを浴びたように、 あっという間に二人は、砂でずぶ濡れになる。

 白い粒子が皮膚の周囲を埋め、覆いつくす中で、息が出来ない恐怖を感じながら、イオキは喘いだ。
 その肩を、砂から守ろうとするように、レインが引っ張った。

 窒息する、と思ったそのとき、窓の閉まる大きな音がした。次いで、乱暴に肩を掴まれ、二人は窓際から引っぺがされた。

 咳き込みながら、スカーフから目だけ上げると、あの機械的な車掌が、冷たい目でこちらを見下ろしていた。

 イオキは、怒られる、と首を縮めたが、彼は何も言わなかった。ただ、砂だらけになった床を、たっぷり数秒間、無言で見つめた。 そして拡声器を口の前へ持ち上げると、イオキたちを一瞥することなく、食堂車へ歩き去っていった。

『ええ…… お客様には今一度、窓を閉めて頂けますよう、お願いいたします。閉め忘れにより事故等が発生しても、 当社は一切責任は負えませんので、悪しからず』

 イオキはレインと顔を見合わせた。
 スカーフから目だけ出したレインは、まるで、雪に埋まった熊の子のようだった。

 イオキは思わず噴き出した。

「怒られちゃったね」

 と、イオキは笑いながら、スカーフを顔から取った。

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