「お前のせいだ」って、ユーリに突き落とされたんだよ。

 「十字架につけろ」って、シナイ山の人たちに追われたんだよ。

 「君はこの先ずっと、圧倒的な憎しみの世界で生きざるを得ない」って、ザネリに言われたんだよ。


 薄光で潤む緑の瞳に、涙が盛り上がった。唇が震えた。

 ロミやタキオの前ではずっと黙っていたこと、何も考えまい、感じまいとして、己の内に隠していたものが、 鈍く光る不気味なナイフによって、切り裂かれたようだった。


 痛みと恐怖で、体中の震えが、止まらない。ザネリにナイフを突きつけられた時のこと。村人たちに石を投げつけられた時のこと。 ユーリに首を絞められ、ボートから突き落とされた時のことを、思い出すと。


 「人喰鬼が殺されるのは仕方ない」と、雪の枝の上から自らロミに告げた時の、死に絶えたような静寂を、思い出すと。


 堪えきれず、イオキは泣き出した。
 その手に、冷たい金属が触れた。

 レインの左手だった。

 イオキと並ぶように立ったレインは、彼の手を握ったまま、立っていた。イオキを見つめるその顔はやはり、困惑するでも慰めるでもなく、 食堂車から聞こえてくる音楽を、黙って聞いているようにも見えた。

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